- そして今日も世界は回る - 前編
それはクロさんの一言から始まった。
11日 AM 1:00 「そういえば、アレク。ホワイトデーにマーティにお返しするの?」 「へ?」 「ホワイトデー。…あれ、知らない?」 「いえ…知ってますけど…」 「まさかアレクお返ししないなんて事はないよね?」 クロさんが『ニッコリ』笑ってそう言ってきた… 俺は内心汗だらだらで… 「だって…マーティ“お返しいらない”って…」 「ばかアレク。そんなのウソに決まってんだろ?」 「え!?そうなの?」 「当たり前だ。ばか。」 「……」 「今、『それならそうって言ってよね』とか思ったんだろう…?」 アレクは図星を指されてビクッとなる… 『クロさん…俺の心が読めてる…?』 そんなアレクの反応を面白そうに見て、クロウは。 「ホントにバカだな。アレク。お前の顔を見れば分かる」 「え?そんなに俺って顔に出やすい?」 「…分かってなかったのか…?」 「だって…皆には“何考えてるのか分からない”とか言われるし…」 「…アレクは分かりやすいけどな?」 「そうなんだ…」 「で?」 「で?」 「…マーティにお返しは?」 「あぁ!そうでした。…何がいいでしょうか?」 「…ホント、バカにつける薬はないな…。自分で考えろ。それが礼儀だ。」 そう言ってクロウはベットへともぐりこんだ… 残されたアレクは… 『クロさんから“礼儀”とか言われるとは思ってなかった…』 と、思ったとか… ** ** ** 11日 PM 20:00 何時もは城と連れ立って部屋にやってくるマーティだが… 「お邪魔します。」 「いらっしゃいお城ちゃん。あれ?マーティーは?」 「今日は用事があるって…。」 「そっか。…ところでお城ちゃんはホワイトデー何を返すの?」 「…どうかしたんですか?アレクさん…」 「いやー。…昨日クロさんに『マーティに何お返しするの?』とか聞かれちゃって…」 「……」 「で、何を返したらいいのかなー?ってクロさんに聞いたら怒られた。」 「…何て怒られたんですか…?」 「え?…『自分で考えろ。それが礼儀だ』って」 「…で。俺に聞くんですか…?」 「…やっぱマズイ?」 「良くないでしょうね。」 城は一言で終わらせる… そんな城にアレクは食い下がり… 「お城ちゃんならマーティの好みとか知ってそうだし…?」 「アレクさんだって知ってるでしょう?」 「最近、そんな話してないし…。知ってるって言っても数年前の情報だし…」 「…アレクさん…。」 城はあきれ返ってアレクを見る… 『この人って…。器用なんだか、不器用なんだか…』 「はー。仕方ないですね…。こっそりマーティの好きなもの聞いておきます。」 「有り難う!お城ちゃん!!」 「でも、それ以上はしませんから!あとはアレクさん自身が考えるんですよ?」 「はーい。ホント有り難うね!」 アレクはニコニコと上機嫌だが… 城は些か不安な気持ちになっていた。 果たして、あの鋭いマーティに気づかれずに聞きだせるのだろうか? と。 ** ** ** 12日 AM 11:40 食堂でマーティと出会った城は隣の席に座り、何気なく聞き出そうとした。 「マーティ。最近、好きなものって何がある?」 「…どうしたの?突然…」 「いや…。そろそろホワイトデーも近いし? バレンタインにはマーティに貰ったから何かお返しでも。と思って…」 城は苦し紛れな言い訳をする… そんな城をチラッとみたマーティは。 「…そんなの気にしなくていいのに。」 と薄く笑って… 「じゃあ、城には一日付き合ってもらおうかな?それでいいよ。」 「…それ以外には…?」 「別に?…あぁ。一つだけ伝言を…」 その言葉に城がビクッと反応する― それを見てマーティは周りが凍えるような笑みを浮かべ― 「“いらない”って言ったはずですが?それでも、もし、くれるのであれば…」 「…あれば…?」 「ご自分で考えてください。と。」 「…了解…」 「伝言は以上です。さあ、早く食べないと仕事が始まるよ?城」 「…そうだな…」 その日。城は昼食のご飯の味を覚えていなかったとか… ** ** ** 12日 PM 20:30 アレクの所にやって来た城は… 昼間のマーティとのやり取りをそのままアレクに伝えた。 そして。 「…アレクさん…。もう俺に頼らないで下さいね。」 と、一言だけ呟いて自室へ戻っていった… アレクは… 「ゴメンね。お城ちゃん…」 コッソリと謝るしか出来なかった… ** ** ** 13日 AM 9:00 アレクは本日休暇で。 「うーん。どうしようか…?やっぱり本人に聞いたほうが早いよなー。」 という結論に達し、マーティの所へ直接聞きに出掛けた。 『確か、今日マーティも休みだったはずだし…』 アレクはマーティの部屋へと向かい… コンコン― 「マーティいる?」 部屋を訪れたが、誰もいない… ドアの前で「どうしよう?」と悩んでいると 通りかかった本木が 「あれ、アレクさん?マーティなら城と出掛けてましたよ?」 と、教えてくれた。 「有り難う。」 と、答え俺は仕方なく自室へと戻る。 『うーん。どうしよっか?本人居ないと話にならないし…』 アレクはカレンダーを見て 『明日…か。仕方ないからとりあえず買出しにでも出掛けようっと。』 そう決定したアレクはサッと用意を済ませ街へと出掛けた。 ** ** ** 13日 AM 10:00 マーティと城は遅めのモーニングを食べていた。 「マーティ…なんで、アレクさんに『お返しは要らない』って言ったんだ?」 「…またその話…?」 城は朝からマーティに何度目かの質問をした。 聞かれるたびに嫌な顔をするマーティだったが… 観念したように溜め息をつき重い口を開いた。 「…アレクってさ、基本的に誰とでも仲良くできるでしょう?」 「あぁ…」 「で、この間もイッパイ貰ってて…“その中の一人”になるのが嫌だったから…」 「だから、他の人と同じぐらいなら“いらない”と?」 「…そう…」 そう言ってマーティはそっぽを向く。 そんな仕草を見て城は 「…マーティ…まぁ、自分から“いらない”って言ったんだから貰えなくっても仕方ないね。」 「…城…冷たい…」 その言葉に城は肩をすくめ… 「知ってる。」 「……」 「さあ、早く食べないと映画始まるよ?」 「…わかった…」 そして2人はいそいそと食事を終え、映画館へと向かった。 ** ** ** 13日 PM 22:00 買出しから戻ってきたアレクはゴソゴソと荷物の中から嬉しそうに何かを取り出した。 それを見ていたクロウは… 「アレクー。嬉しそうだね?」 「クロさん!見てください!これだといいかなーって。」 そう言ってクロウに見せたのはシルバーアクセサリーの手作りキットで― 「…アレクが作るの?」 「そうです。」 「…作る時間が有ると?」 「何とかなるでしょう!」 何故か自信満々なアレクは早速!とばかりに箱を開けて中身を取り出し始めた。 嬉々として作業を始めたアレクを見て、クロウは… 『まんまとかかったな…』 一人ほくそ笑んだとか…